カルチャーメモ - 人生最高の仕事を
Netflixのミッションは、世界中にエンターテインメントを届けることです。世界のあらゆる場所で視聴者の皆さまをワクワクさせたいと願っています。そのためにも、さらなる高みを目指し続けるという異色の企業カルチャーを育み、才能あふれる人材が活躍できる環境を作ってきました。そうした中で個々の社員が自身を高め、またお互いを高め合うことで、視聴者の皆さまに届けるサービスのレベルを常に向上させてきました。この文書の中で語られているNetflixのカルチャーは、次の4つの基本理念に基づいています。
- ドリームチーム (Dream Team): Netflixは、高いパフォーマンスを発揮できる社員だけを雇っています。個人でも成果を上げ、チームになるとより大きな成果を上げられる人材です。
- プロセスより人 (People over Process): 必要な情報が開示され、意思決定の自由があると、社員は大きな成果を出せるようになります。Netflixでは、こうしたオープンな環境の中で自由を最大限に活かし活躍できるずば抜けて責任感を持った人材を採用しています。
- ドギマギするほど面白い (Uncomfortably Exciting): 世界中にエンターテインメントを届けるには、大胆かつ野心的である必要があります。つまりそれは、「次は何が来る?」というワクワク感を自分のものとして受け入れるということです。それがたとえ居心地の良いものではなかったにしても、です。
- すごい、を進化し続ける (Great and Always Better): Netflixではよく、今日の自分たちはまだまだダメだ、明日はもっと良くなれる、と言ったりします。改善すべき点に自分で気づき、そこにたどり着くためにすべきことを実行する自己研鑽とレジリエンスが必要です。
もちろん、この理念を常に実践できているわけではありません。しかしNetflixに加わった人のほとんどが、同僚たちの優秀さや、全ての社員に十分な権限が与えられていることに驚き、喜びをもって受け止めています。
Netflixのビジネスが成長し進化するなかで、Netflixのカルチャー (そしてこのメモ) も進化を続けます。変わらないのは、さらなる高みを求めることへのこだわり、そして有能な人材が最高の仕事をできる場所であり続けるという決意です。これを読んでワクワクするのであれば、きっとNetflixで働くことを楽しんでもらえるでしょう。でも誰もがNetflixに向いているという訳ではありません。ぜひ続きを読んで確かめてみてください。
ドリームチーム (Dream Team)
最高の職場に必要なのは、素敵なオフィスでもなければ無料で食事やマッサージを提供することでもないとNetflixは考えています。私たちも素晴らしい福利厚生を用意していますが、大事なのは人です。個人でも成果を上げ、チームになるとより大きな成果を上げられる優秀な同僚たちと共に働く自分を想像してみてください。それこそが、Netflixではチームを家族ではなくプロのスポーツチームのように捉えている理由です。家族であるなら、その愛は時と場合を選びません。また、『オザークへようこそ』や『ウェンズデー』を観れば分かるように、家族は機能不全に陥ることもあるでしょう。それに対して、プロのスポーツチームはパフォーマンスと適材適所を重視し、優秀な選手を得るために大切な選手をトレードに出すこともいといません。ドリームチームのメンバーはそれぞれが違ったスキルを持っていますが、同時にNetflix全体をともに高めてくれる共通の強みがメンバーには求められます。以下は、Netflixが大切にしている価値観です。
- 無私の心 (Selflessness) — 謙虚に最高のアイデアを探し求める。自分や自分のチームにとっての最良ではなく、Netflixにとっての最良を追い求める。他の社員の成功をサポートするための時間を惜しまない。
- 判断力 (Judgment) — 一時的な対応ではなく、長期的に考え解決策を見出す。不確かな状況でも賢明な判断を下す。データを取り入れて自分の直感を導く。
- 率直さ (Candor) — 積極的にフィードバックを交わす。うまくいっていることや改善が必要なことについての指摘を素直に受け入れる。自分の間違いを素直に認め、そこから得た学びを広く共有する。
- 創造性 (Creativity) — 新しいアイデアを歓迎する。イノベーティブな解決策を熱心に追い求める。芸術表現を尊重する。
- 勇気 (Courage) — 批判を恐れずに真実を求める。現状に満足せず、失敗をいとわずにさらなる高みを目指す。
- インクルージョン (Inclusion) — 自分の中にある先入観や偏見を認め、それに取り組む。文化、アイデンティティ、バックグラウンドに関わらず誰もがNetflixで最高の仕事ができるよう努める。
- 好奇心 (Curiosity) — 物事をすばやく、熱意をもって学ぶ。自分のアイデアより他の人のアイデアに興味を持つ。自分の知らないことに対して謙虚な姿勢を持つ。
- レジリエンス (Resilience) — 変化し続ける環境に素早く適応する。難しい判断でも時間をかけすぎずに決断する。難しい課題にも積極的に取り組む。
価値観を語るのは簡単ですが、実践するのはとても難しいことです。Netflixではこうした規範の実践についてお互いに責任を持って明確に説明できるよう、リーダーを中心として熱心に取り組んでいます。なぜなら、高みを目指すためには率直さが不可欠だからです。お互いを頼り合えるプロフェッショナルで強固な信頼関係を築くことに力を入れているのはこのためです。そうすることで類まれな率直さ (Extraordinary Candor) を実践できるようになり、日常の一部として (歯磨きのように) 自然に建設的なフィードバックが交わせるようになります。改善点についてアドバイスを求めたり、最良の道を進むため別の意見を求めたりするには、自分の弱さをさらけ出す勇気が必要です。また、同僚に対して本人に直接言えないことは他で言わないという誠実さも必要です。この点が特に重要になってくるのは、自分より上のポジションにいる人や異なるバックグラウンドを持つ人にフィードバックを伝える場合、あるいは自分の育った文化や過去に勤めた会社では従順であることが当たり前だった場合などです。しかし、類まれな率直さがあれば、個人としても会社としても成長のスピードを早めることができます。
どのようなポジションにおいても、パフォーマンスの高い社員は平均の何倍も効果的に業務を行います。だからこそ、ドリームチームの原動力はあくまでもパフォーマンスであり年功序列や在職期間、無条件な忠誠心ではありません。これが、高いパフォーマンスを生むカルチャーを維持することにNetflixが注力している理由でもあります。優秀な人材を採用し長く働いてもらうために、Netflixではポジションや勤務地に基づいた、その個人における最高水準の給与を支払っています。給与額は、他社の同様のポジションでその人がどれくらいの給与を受け取れるか、Netflixに留まってもらうために、または代わりの人間を雇うのにどれくらいの費用がかかるかを考えて判断します。リーダーには才能を引き出す力が求められます。そして各ポジションにふさわしい人材を配置するために、「キーパーテスト (Keeper Test)」1を行うよう指導しています。「もしその社員がNetflixを離れることを希望したら、自分は必死に引き留めようとするだろうか?」、「今、分かっていることを採用当時にすべて知っていたとしたら、この人を再び雇うだろうか?」と自らに問いかけるのです。答えがノーであれば速やかに退職してもらうのが、双方にとって適切な判断でしょう。
概念だけ聞くと、キーパーテストは恐ろしいテストのように思えるかもしれませんが、実際のところ、うまくいっていることや、いないことについてマネージャーと定期的に話し合うようすべての社員に推奨しています。そうすることで、キーパーテストの結果を社員の側も予想しやすくなるからです。また、マネージャーは失敗やリスクを取ったことによる損失で判断するのではなく、これまで出した成果全体に基づいてチームメンバーを評価しています。ドリームチームには、現状に満足せず新しいやり方に挑戦する社員が必要です。そのため短期的なしくじりで見放すようなことはしません。
いくら有能であっても、同僚に配慮と敬意を持って接することができなければ、Netflixのドリームチームには居場所はありません。才能にあふれた人たちがお互いを信頼し、違いを尊重しながら協力して働けば、誰もがより大きな成果を上げることができるでしょう。
プロセスより人 (People over Process)
私たちの多くが、決定はトップダウンで下され、透明性はほとんどない企業で働いたことがあります。そういった企業では何かを変えることはもちろん、ごく基本的な事を進めるのでさえもひどく手間がかかるように感じられるものです。Netflixでは、単に社員を管理するのではなく、社員をインスパイアし権限を与えることを目指しています。自身の業務について意思決定の自由があれば、より大きな影響力を持つことができるからです。
その一環として、会社の全ての社員が高い判断力を身に付けられるよう取り組んでおり、経営陣による意思決定は多くなく、むしろ少ないことに誇りを持っています。マネージャーには、コントロールではなくコンテキスト(Context not Control) を与えることが求められます。つまり、マネージャーがすべてを自分でコントロールするのではなく、適切な判断を下すために必要なコンテキストや情報をチームに対して与えるということです。また、Netflixでは多くの情報を社内で共有し、社員が学べるようにしています。そのなかには社員がコメントしたり質問したりできるようになっているものもあります。こうした自由度の高さを最大限に活かして活躍するには、ずば抜けて責任感のある人(Unusually Responsible Person)、つまり自発的で自己認識力や自己管理能力が高い人材である必要があります。自分の家にゴミがあれば自分で拾うように、指示を待つのではなく問題があれば自らが動く人です。そうは言っても、「コントロールではなくコンテキスト」の原則を放任型のマネジメントと混同しないよう注意が必要です。マネージャーは、自身のチームが行っている仕事に携わり、積極的に指導する必要があります。誰かが倫理に反した判断をしかけたときやNetflixに大きな被害を与えるおそれのあるとき、非常事態の際や新しいチームメンバーがコンテキストを十分に把握できていない場合などにはマネージャーが割って入る必要があります。
委員会方式での意思決定は、会社の歩みを遅くし、責任意識を弱めるため行わないようにしています。大きな決断にあたってはインフォームド・キャプテン (Informed Captain) を1人立て、その人が責任を持って正しい方向性について最終的な決定を下します。そしてその決定を実行するのが、それぞれのインフォームド・キャプテンが率いる各チームです。このように足
並みを揃えつつもそれぞれが独立して動く というアプローチを取ると、チームが結果に対する責任をしっかりと持ちながら自由に素早く行動し、自律して業務を進めることができます。
最良のアイデアはどこからでも出てくるものだと私たちは知っています。だからこそ、インフォームド・キャプテンには、さまざまな意見を求めて全ての社員に耳を傾けてほしいのです。Netflixではこれを 反対意見を募る と言います。もちろん、すべての意見を平等に扱えるわけではありませんし、1万人以上の社員がいるなかで1人ひとりがほとんどの決定に関わることは非現実的です (このメモは例外です)。たとえば、クリエイティブ面での重要な決定をする際は、映画やドラマ、ゲーム担当の意見がエンジニアの意見より重視されますし、逆にプロダクトやテクノロジーに関する問題であればエンジニアの意見が重視されます。いったん決定した後は、別のやり方を主張していた人も含め全員が協力しあい、反対してもコミット することが求められます。こうすることで、最大限の成果が出せるようになります。後日結果が明らかになったら、インフォームド・キャプテンがその決定についてうまくいった点、いかなかった点を振り返ります。次はどうしたらもっと成果を上げられるかを皆が学べるようにするためです。
映画やドラマ、ゲームのリリース、マーケティングキャンペーンの実施、四半期の決算などには、いずれも決まったプロセスが必要です。ハラスメントや特定の同僚を不当に排除すること、会社の情報の漏洩やインサイダー取引といった事柄についても、厳しいルールが企業には必要です。しかし、Netflixではルールは最低限にとどめ、プロセスを設けるならばシンプルで効果があり、意義のあるものにするべきだと考えています。たとえば、Netflixの休暇に関する方針は非常にシンプルです。単に「休暇を取る」です。経費に関する方針も非常に短く、「Netflixにとって最大の利益になるよう行動する」としています。このような(ほぼ) No Rulesのルール によって、判断を下す自由が社員各自に与えられています。また、プロセスがいつのまにか増えて創造性が奪われ、環境の変化に適応できなくなっていくという、会社が成長し組織を誰にでも分かりやすくしようとするなかでしばしば発生する事態を防ぐこともできます。
こうした自由を与えたら統制が取れなくなると思うかもしれません。実際、問題もある程度はありました。ごくわずかですが、自分の利益のためにNetflixのカルチャーを悪用した人もいます。しかし、個人の裁量を重視するアプローチは、会社に極めて大きな成功をもたらし、社員がスキルを身につけ成長するための多くの機会を提供しています。エンターテインメントやテクノロジー業界では、創造性や適応力がないことや、イノベーションを起こせないことは致命的な問題です。ミスを最小限にとどめるのではなくルールやプロセスを最小限にとどめるよう心がけ、それと同時に社員が自分で自由に判断して失敗から学べるようにすることが、長期的な成功には最も効果的なやり方なのです。
ドギマギするほど面白い (Uncomfortably Exciting)
Netflixは5億 2をゆうに超える世界中の人にサービスを提供しています。このように成功したエンターテインメント企業は他にありません。成功するには、斬新な考え方を持ち、実験的な試みに挑戦し、環境の変化に (多くの場合素早く) 対応する必要があります。これは、新しい機能の設計であっても、オススメ機能の向上、マーケティングキャンペーンの展開、番組やゲームの制作であっても同じです。安定し、リスクを取らない会社を好む人も多いと思いますが、実験的な試みに挑戦することに価値を見出し、新しいプロジェクトや難しいプロジェクトはドギマギするほど面白いと感じ、またそういった環境で活躍するレジリエンスがあるならば、Netflixはあなたにとって最高の場所です。
芸術表現 (Artistic Expression)
Netflixのメンバーには、さまざまなバックグラウンドやカルチャーを持つ人々がいます。そして、多種多様なストーリーや人々が作品の中で描かれることを望んでいます。こうした思いを反映させるリプレゼンテーションは重要です。ダイバーシティ (多様性) を尊重することは素晴らしいことですが、視聴する作品の中で容認できること、有害と感じることについての意見もさまざまであるため、そこから深刻な対立が生じるおそれもあります。映画であれドラマであれゲームであれ、すべての作品はそれぞれ違いますが、Netflixではすべて同じ原則で対応しています。それは、私たちが選んだクリエイターの芸術表現をサポートすること。文化や好みなど幅広い視聴者のためにサービスを提供すること。また、観たい作品やプレイしたいゲームを選びやすくするために、年齢制限や内容に関する注意喚起、ペアレンタルコントロールなどを複数の言語で提供することも行っています。私たちは社員としてこの方針を推進しており、各自の価値観にそぐわない作品であってもその姿勢は変わりません。ポジションによっては、自分にとって有害に思えるような映画やドラマ、ゲームなどに携わらなければならないこともあります。こうした幅広い作品に対応することが難しいと感じるなら、Netflixは最適な環境とは言えないかもしれません。
すごい、を進化し続ける(Great and Always Better)
1998年に最初のDVDを発送してから、Netflixはこれまで長い道のりを歩んできました。しかし理想の実現のためにすべきことはまだまだあります。だからこそ私たちはドリームチームを大切にし、プロセスより人を重視し、Netflixをより良くすることに誰もが責任を感じることのできる環境を作っているのです。こうしたアプローチこそが、さらなる高みを目指し長期的な成功を収めるための一番確実な道だと信じています。
そしてだからこそ、自分たちのカルチャーをただ保つのではなく、進化させるよう常に努力しているのです。新しく入ってくる社員1人ひとりが、Netflixのありかたを形づくります。より多くのことをともに達成するための新しい道をともに探して。こうしてNetflixを利用するメンバーはもちろん、社員、クリエイター、パートナーの満足度を高め、ひいては会社を長期的な成長や成功へと導いていくのです。Netflixにとって、これが世界中にエンターテインメントを届け、他に類を見ない成功を積み上げていくやり方です。
2009年に初めて書かれた「Netflixのカルチャー」にもありますが、「星の王子さま」の著者アントワーヌ・ド・サン=テグジュペリの言葉が、私たちの道標です。
船を造りたいのなら
人を呼んで材木を集めさせたり
仕事を割り当て
命じる必要はありません。
代わりに、果てしなく続く海への
憧れを説いてやりなさい。
1 「キーパーテスト」という名前は、共同創業者のリード・ヘイスティングスが子どもの頃、彼が釣った魚に対して父親が「リード、それはキーパー (取っておくべき) だね!」と言ったことが由来です。
2 2024年の第1四半期現在、2億6000万を超える世帯がNetflixに登録しています。1世帯に2人いると控えめに見積もったとしても、視聴者は5億人を超えます。